D棟の管理運営について
規約上の定め
2025年 4月 9日
各共有者(区分所有者)は平等に共用部分の負担に任じるというのはマンション管理の大原則です(区分所有法第19条)。皆さんそれを根拠にD棟の空調機やボイラーなど設備の費用を組合が出すことを当然と思って来たと思います。第19条を引用します。
(共用部分の負担及び利益収取)
第十九条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
「生ずる利益を収取する」の部分に注目してください。ですが、ホテルが共用部分から生じる利益を計算することは複雑すぎてまず不可能です。ではどうすればいいのか?そのためには「規約に別段の定め」が必要になります。
全体管理規約附則第6条22項にホテルと管理組合の関係について書かれています。そこでは共同負担という大原則に続けて、
「但し、本マンションのD棟は以前から株式会社共立メンテナンスがホテルの施設として管理・運営を行ってきたものであり、今後も同社に第三者無償使用を認めるものとし、同社が日常の運営経費を負担するものとする。」とあります。
この「使用を認める」という定めがあるからホテルは共用部分を使って、ホテル運営を継続し、収益を得ています。そうでなければ一区分所有者が共用部分を管理することはできませんし、ましてや収益を得ることはできません。
全体規約第11条および別表第5に、「D棟各種施設・設備」など無償でホテル運営会社に第三者専用使用権を与えている対象と使用権者を定めています。つまり全体管理組合はこれらD棟部分を管理、運営をしていません。
でも共用部分の修繕は所有者である管理組合が行うものではないかと思うかもしれません。ですが規約はそういう書き方をしていません。全体規約第26条(標準管理規約では第32条)に管理組合が行う業務として、「(2)全体組合管理部分の修繕」となっています。共用部分かどうかではなく、管理している部分かどうかによります。
無償使用とは何か
規約にある「無償使用」という言葉を調べると主に不動産で使われ、不動産を賃料を取らないで貸すことをいいます。ここでいう「日常の経費」とは何でしょうか?
無償で使用させることを民法上で「使用貸借」と言います。使用貸借の場合、民法第595条で借主は「借用物の通常の必要費を 負担する」とあります。民法の解説(資料1)によると、この「通常の」必要費というのは、目的物の現状維持に必要な修理・修繕のような場合を指します (資料2)。通常とはいえない「非常の」必要費とはたとえば、風水害による破損の修理・修繕費などを指します。
改良など現状維持に必要とは言えない費用はどうなるのでしょうか。価値を増加させた場合は「有益費」となり賃貸借の場合と同じく、貸主が借主に償還する(支払う)ことになります。償還するタイミングは目的物が返還されたときです。逆に価値を減少させた場合ですが、借主は借用物を元通りにして返さなければなりません。
<説明追加>「日常の運営経費」は民法上の用語ではないですが、規約22項では無償使用における借主が負担する費用の意味で使われたと考えられます。「日常の運営経費」は経理で使われる用語で、事業を運営するために継続的に発生する費用のことです。修繕費も含まれます。A棟はホテルという事業であることから「運営経費」という経理用語を使ったのでしょう。非営利団体同士だったら使わないと思います。
(参考)
民法条文
(使用貸借) 第593条 使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
(借用物の費用の負担) 第595条 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
解説資料1 宅建通信学院
http://www.law-ed07.com/cyber-law/minpou/0595.php
解説資料2 Wikibooks 民法
